連載「人間関係を滑らかにする『言葉』のおけいこ」第5回 | 福岡県久留米市 久留米大学前駅【松本コミュニケーション研究所】

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連載「人間関係を滑らかにする『言葉』のおけいこ」第5回

2020/08/21

Lesson5 対応に困る言葉への対応法

この原稿に向かっているのは、政府から7都府県へ緊急事態宣言が発令されて間もない頃です。事態対応の最前線にてご尽力くださる皆様に、まず、心からの「ありがとうございます」をお伝えさせてください。

 

こうして、日々、皆様には数多くの感謝とエールが届いていると思います。とともに、未曾有の状況に動揺し、自分を失ってしまっている方からの心ない言葉や対応も体験しておいでかと。

 

身体的な疲労に加え、パワーを奪われる言葉や対応で疲弊しているかもしれない心に、わずかでも活力を取り戻していただけたら。今回も、そんな勝手な思いのもと、私なりの思いをこめて綴らせていただきます。よろしくお願いいたします!

 

 

生きるための活力につながる良質な言葉を自分へ

「ありがとう」と「すみません」。あなたが自分に聴かせたいのはどちらですか?

そんな問いかけから始まった本連載も、早いもので5回目となりました。

 

この辺りで一度おさらいをしておきたいと思うのですが、貴重なこの1回。現場で役立てていただけそうな具体的な事例に、おさらいのポイントを私なりにプラスしてお話します。

 

 

まずは、あなたの貴重な時間をこの連載に費やしていただくことの意味や価値から話を始めましょう。

 

 

この連載は、

 

①自分が使う言葉への関心を高め、自分にとって栄養価の高い(自分が喜ぶ)言葉を自分に与え、その栄養をもとに、日々の活力を自家栽培する

 

②他者に依存しない栄養源は自己の安定化に繋がり、自分の機嫌をはじめとした、様々な自己コントロール力を高める

 

③自分のエネルギーに余裕がある時に周囲におすそ分けすることで、周囲にもご機嫌の良い波が広がり、結果、あなたの職場や家庭での居心地が良くなる

 

という循環を目指し、まずは1歩目の「自分の言葉への関心を高め、自分が喜ぶ言葉で日常を埋めるとは」について話をしています。

 

 

自分が自分にかけてあげる言葉は、生きるために必要な活力であり、ひと言で展開を変えられる可能性を持つ、生きる知恵でありスキルにも通じます。

 

 

あなたが生きるために必要な活力となる言葉は、「あなた」から生み出されます。

 

 

野菜の味は土によって決まるとも言われるように、自分に常々どういった栄養を与えてあげているか? は、そこから生み出される言葉の質のカギを握ります。

 

 

自家栽培し、生きる活力のカギを握る「自分にかける、あくまでも自分にとっての良質の言葉」(良質とは、"自分にとって励みやパワーとなる言葉” "自分をあたため落ち着かせ、自分を取り戻させてくれる言葉”などです)。

 

 

自分のために言葉を選び、それらの言葉で日常を営んでいくことの価値や意味を、改めて理解してもらえたでしょうか?

 

 

言葉ではなく微笑みを返してみよう

さて、労いや気遣いの言葉をかけてもらった時に、対応に困ったことはありますか? 自分への気遣いの言葉と理解はできていても、特に疲弊している時に「人の思いが込められた言葉」に向き合うのは、思う以上のエネルギーを要し、気づかない間にあなたの疲労を深める場合があります。感謝はありつつも、今は他のことにエネルギーを蓄えておけたらと感じる方は、例えば微笑みだけを返す対応をするのはいかがでしょうか?

 

 

「無理しないでね」は労いの言葉の代表格です。無理をしたくてしている人はいません。相手もそれはわかっています。ただ、「労いの言葉リスト」にほかの備えがない方のこの言葉の使用率は、かなり高めです。

 

 

ほかにも、「疲れているようね」「忙しいでしょ?」「大変よね」など、見たままを投げかけられた時、自分の言葉に棘すらも感じながら、「そんなの当たり前。見て分からないのかな。対応する余力はないよ…」などといった言葉を思い浮かべたことはありますか?

 

 

疲労などで自己コントロール力が落ちていると、ある言葉によって、日頃抑え込んでいる思いの蓋が開きやすくなり、相手の好意を自分の活力へと変換することが難しい時があります。

 

 

そんな時、自分のざわつきを長引かせず、かつ、相手の好意に応えるにはどうするのか。表情筋に意識を向ける必要はありますが、軽く口角を上げ、頬が動くくらいの微笑みのみで対応してみるのはいかがでしょうか? その際、「ご心配いただきありがとうございます」という言葉を添え、もし目も笑えそうであれば、相手の目を見ていただけると、それ以上の会話の継続の可能性はより低められるかと思います。言葉を増やす必要はありません。つけなくても、使わなくてもいい言葉は自分に使わせないであげていただけたらと。

 

 

話の焦点を相手に移動させる

返答に困る投げかけをしてくる人には「自分の話を聴いてほしいためのきっかけづくり」という可能性もあります。医療現場では日常でしょう。そんな空気を察知した時、あなたに余裕があれば、「何か気にかかることがありますか? なんとなく、そんな気がしたもので」などの、話の焦点をあなたから相手に移動させる言葉がお薦めです。

 

 

もし、相手が「どうしてそう思うのですか?」と返してきたら、「医療者の勘ですかね♪違っていたのなら失礼しました!」のように、あえて特別な意味を込めない言葉で話を展開すると、会話の切れ目が生まれやすくなりますので、そのタイミングでその場を立ち去る方法もあると思います。(言葉の後ろの♪などの記号で、言葉のニュアンスを察してもらえるとより効果は高まります)。

 

 

自分を整えるための具体的な方法

自分を整えるための具体的な方法も2つ紹介させてください。

 

●自分を整える方法その1. 左右の確認

疲れが心身へ及ぼす悪影響はご存じのとおりです。そんな状態の時に人は、危険と隣り合わせです。「左右の確認」は、車でも徒歩でも、屋内でも屋外でも、必ず誰もが行っている行動です。道路や廊下の交差点での自分の動作の加減を、自分の意識が明瞭な状態かを確認する機会として「左右の確認」をしてみるのはいかがでしょうか? ちなみに、あなたの意識の明瞭度は、「言葉を選ぶ」上でも必須要素です。

 

 

●自分を整える方法その2. 磨く

「電車の窓に映った自分の顔を見て自分の様子を知った」といった経験ありませんか? 鏡や眼鏡、スマホの液晶画面、仕事で使われる各種器具でも結構です。あなたの身近にある「あなたが映る物」を磨く行為は、仕事の顔から家族の顔、休憩終わりなど、自分を切り替えるタイミングはもちろん、緊急事態などに動揺している自分を早く落ち着かせる必要がある時も有効です。

 

 

眼鏡やスマホは、職場でも家庭でも、それ以外の場所でも、性別問わず持っていると思います。磨くという行為を通じて、ほんの数秒、自分の顔を見てあげることは、自分に寄り添う行為ではないかと思う私からのご提案です。

 

 

繰り返しますが、言葉選び/探しは、決して、あなた個人に利益が留まる取り組みではありません。あなたの言葉が、緊急時に、動揺している人に、展開の切り替えを提供できるかもしれません。ぜひ、これからも安心して取り組んでいただけたらと思います。

 

 

次回は「『無理しないでね』はどう伝えると相手をざわつかせずにすむのか」について、今回の補足も兼ねてお話しします。

 

 

心からの願いを込めて。ご安全に!

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